日本応用動物昆虫学会誌
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カイコの寄主植物選択における味覚認識の役割
平尾 常男荒井 成彦
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1991 年 35 巻 3 号 p. 197-206

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抄録

カイコの寄主植物であるクワのほかに,比較的よく摂食されるものとしては,シャ,ノニレおよびアキノノゲシ,それにまったく摂食されないものとしては,トウゴマ,シンジュ,サクラ,クヌギおよびフウの合計9種の植物種を選び,それらの植物葉水溶性画分に対する摂食反応と味覚認識パターンとの関連性について解析し,カイコの寄主選択性における味覚認識の役割について検討した。
1) 植物葉の水溶性画分液を寒天で固めた飼料を用いて植物に対する摂食反応を調べた。その結果,クワに対する摂食反応が最も強く,ついでシャ,ノニレ,アキノノゲシの順に弱くなり,トウゴマ,シンジュ,サクラ,クヌギおよびフウには,摂食反応はまったく示されなかった。
2) LS, LIおよびR受容細胞の応答を指標として,これらの植物葉水溶性画分に対するカイコ幼虫の味覚応答パターンを調べた。得られたパターンは,LS・LIタイプ,LS・LI・Rタイプ,LS・RタイプおよびRタイプの4種類に分類された。そして,これらの結果を摂食反応と対比させて解析し,引き起こされる摂食反応の強さは,LS, LIおよびRそれぞれのインパルス頻度の相互関係で左右されることが明らかになった。すなわち,基礎的摂食促進性情報としてのLSおよび付加効果的摂食促進性情報としてのLI,それぞれのインパルス頻度をプラス要因とし,摂食抑制性情報としてのRインパルス頻度をマイナス要因として,それらの総合された結果に応じた摂食反応が引き起こされることが確かめられた。
3) “苦味物質”はR受容細胞を刺激し,摂食抑制性のインパルスを発生させるだけではなく,同時に,LS受容細胞の感受性を抑制し,基礎的摂食促進物質としてのsucroseの含量を実際より少なく感じさせるという,二重の抑制作用をもたらすことが明らかになった。
4) 今回の実験結果とこれまでの知見をもとに,カイコ幼虫の摂食機構に関して,情報入力(受容認識)から運動出力(具体的行動)への三つの系を提示した。そしてそれらのうちで,味覚受容認識から摂食行動継続への系が,カイコの植物(飼料)選択にとって,もっとも狭いゲートになっていることを明らかにした。
以上の結果から,カイコの寄主植物選択における味覚認識の役割についての考察を試みた。

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