Trends in Glycoscience and Glycotechnology
Online ISSN : 1883-2113
Print ISSN : 0915-7352
ISSN-L : 0915-7352
血液型抗原研究の半世紀
ある個人的回想
Winifred M. Watkins中山 文昭小林 明子
著者情報
ジャーナル フリー

1999 年 11 巻 62 号 p. 391-411

詳細
抄録

ABO式およびルイス式血液型抗原について、実際にはその化学構造について何もわかっていなかった1940年代から、赤血球表面へ抗原を発現させる究極の遺伝子を分子の言葉で明瞭に定義するに至った今日までの研究の経過について述べる。初期の仕事は、赤血球表面のA、B、H、ルイス抗原と同じ血清学的な特異性を有する分泌型糖タンパク質についてすすめられた。単糖による血球凝集阻害やエキソグリコシダーゼによる分解の阻害の間接的方法を用いて、血液型決定基構造中の免疫学的優位な糖を同定した。エキソグリコシダーゼで逐次的に分解することによりAとBがHへと変化する、前駆体と生成物の関係を明らかにし、一つの糖がその下にある特異的な構造をマスクすることを示した。精製した糖タンパク質を弱酸やアルカリで断片化することにより、結果的には、A、B、H、Le(a)、Le(b)の5種類の特異性に対する化学構造の決定につながった。血液型反応の基礎となる化学的知見を得て、ABO, H, 分泌型とLewis 遺伝子間の表現型レベルの関係を説明する、遺伝子レベルの制御と糖タンパク質の生合成機構を提案した。血液型遺伝子により作られる最初のタンパク質産物が糖転移酵素であり、免疫学的優位な糖を転位し血液型決定基構造を完成させる、という考えが確認された。これらの糖転移酵素の特性づけによって、血液型遺伝子のクローニングとその塩基配列決定が可能になった。P式血液型のP1決定基とSid式血液型のSd(a)決定基の研究は、赤血球表面抗原と同じ特異性を有する可溶性物質を使って行われた。ヒツジ胞虫嚢腫液から分離された糖タンパク質からP1決定基とSd(a)決定基の構造が得られ、ヒト尿に分泌される可溶性のTamm-Horsfall 糖タンパク質から遊離された断片中にも同一の構造が同定された。

著者関連情報
© FCCA, Forum; Carbohydrates Coming of Age
前の記事 次の記事
feedback
Top