Trends in Glycoscience and Glycotechnology
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β1,3-N-アセチルグルコサミン転移酵素の機能解析とポリラクトサミン糖鎖による免疫機能調節
Akira TogayachiHisashi Narimatsu
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2012 年 24 巻 137 号 p. 95-111

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抄録

我々は、β1,3-結合で糖を転移する糖転移酵素群に属する多数の遺伝子の単離と機能解析を進めてきた。これらのβ1,3-結合糖転移酵素のうち、β1,3-N-アセチルグルコサミン転移酵素群は「ポリラクトサミン(polylactosamine、正式にはポリ-N-アセチルラクトサミン: poly-N-acetyllactosamine と称する)」と呼ばれる特徴的な糖鎖構造を合成する。このポリラクトサミン糖鎖構造は糖タンパク質 (O-glycan、N-glycan) や糖脂質上に存在している。ポリラクトサミン糖鎖は、糖鎖の基幹的な構造を形成しており、非常に重要な構造のひとつであると考えられている。しかしながら、その生体内における機能はあまりよく分かっていない。そこで、我々はポリラクトサミン鎖合成に関与するβ1,3-N-アセチルグルコサミン転移酵素のうち、2つの酵素の遺伝子ノックアウトマウス(B3gnt2-/- マウス、B3gnt5-/-マウス) を作製し、その表現型を中心に解析を行うこととした。まず、糖タンパク質上のポリラクトサミンの生体内機能を解析するために、糖タンパク質上のポリラクトサミンの合成に関与する、β1,3-N-アセチルグルコサミン転移酵素2 (B3gnt2)遺伝子ノックアウト(B3gnt2-/-)マウスを解析した結果、このB3gnt2-/-マウスでは糖タンパク質のN-glycan上の長鎖ポリラクトサミン構造が有意に減少しており、B3gnt2-/-リンパ球ではTCR/CD28分子あるいはBCR分子を介した免疫活性化の亢進を起こしていた。次に、糖脂質上のポリラクトサミンの生体内機能を解析するために、ラクト/ネオラクト系列糖脂質が欠損している、β1,3-N-アセチルグルコサミン転移酵素5 (B3gnt5)遺伝子ノックアウト(B3gnt5-/-)マウスを用いて解析を行った。B3gnt5-/-マウス由来B細胞では、糖脂質マイクロドメイン構造 (GEM: glycosphingolipids-enriched microdomainあるいは糖脂質ラフト構造とも言われている)の形成異常が観察され、B3gnt5-/- B細胞では野生型マウスに比較してGEM構造内のBCR関連分子を介した免疫反応性の亢進が確認された。ポリラクトサミン糖鎖の欠損がこれらのマウスで観察された免疫異常を及ぼしているようである。本研究により、ポリラクトサミン糖鎖が過剰な免疫反応に抑制的に働いていることが示唆され、ポリラクトサミン糖鎖が免疫システムにおいて重要な機能を担っていることが明らかになった。

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© 2012 FCCA(Forum: Carbohydrates Coming of Age)
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