Trends in Glycoscience and Glycotechnology
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Tリンパ球アポトーシスの誘導: ガレクチン-1に見いだされた新しい機能
Karen E. PaceLinda G. Baum山岡 和子
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1997 年 9 巻 45 号 p. 21-29

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抄録

ガレクチン-1は、β-ガラクトシド結合タンパク質がつくるガレクチン家系の一構成員で、多くの正常細胞や癌細胞で産生されている。ガレクチン-1は、たとえば細胞と細胞の相互作用の仲介、細胞増殖に対する影響など多くの機能を持つことが示されている。
最近、我々はガレクチン-1の新たな機能として、T細胞のアポトーシスにおける伝達物質としての作用を明らかにした。アポトーシスは、胸腺における免疫適格 (immunocompetent) なT細胞の産生と、末梢リンパ系器官での免疫応答の終結になくてはならない重要な機構である。ガレクチン-1は免疫系の組織としてのヒト胸腺、リンパ節、脾臓に発現している。これらリンパ系器官内にガレクチン-1が存在すること、および胸腺細胞や活性化T細胞のアポトーシスを誘導することは、ガレクチン-1が中枢や末梢部位で自己抗原に対する免疫寛容の維持に重要な役割を果たしていることを示唆する。ガレクチン-1に対するT細胞の感受性は、ガレクチン-1のカウンターレセプターとなる細胞表層糖タンパク質の発現を制御することで調節されていると考えられる。CD45もそのようなカウンターレセプターのひとつで、ガレクチン-1が誘導するアポトーシスの不可欠な引き金になっているようだ。しかし、T細胞のガレクチン-1に対する感受性は、CD45の糖鎖付加の状態や、CD43のような他のカウンターレセプターの存在によっても調節されているらしい。
またガレクチン-1は、非リンパ系器官における免疫系の制御でも重要な役割を持つと考えられる。ガレクチン-1は胎盤、前立腺、角膜など多くの免疫特権的 (immune priviledged) 部位や組織で発現されている。免疫特権部位、および組織というのは、たとえば角膜などのような重要な器官が、活性化T細胞による炎症反応で損傷されることのないように、免疫反応がやわらげられている生体内部位のことである。アポトーシスは免疫特権を維持するために不可欠な機構であることが示されている。免疫特権的組織でガレクチン-1が発現されることによって、侵入してくる活性化T細胞のアポトーシスが誘導され、その結果免疫特権が維持されると考えられる。我々は、上記リンパ系器官と免疫特権的部位でガレクチン-1が発現されているのは、免疫反応の調節を行う上で重要な役割を果たしているから、という仮説を提唱する。

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© FCCA, Forum; Carbohydrates Coming of Age
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